力学

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コラム~第9回 力学的エネルギーを振り返って~

 現在2019年11月24日11時31分である。

麻友「このコラムは、終わりにしていいと、言ったけど」

私「せっかくあそこまでやったんだ。ちょっと、飛ばしすぎたところを、復習して終わろう」

麻友「例えば、どんなこと?」

私「運動エネルギーとか、位置エネルギー、とか出てきたけど、なぜそんなものを、考える必要が、あったか、とか」

麻友「そうね。運動エネルギーと位置エネルギーの和が、力学的エネルギーと言って、それが、保存するって、どういうことか、分かってない」

私「そういう風に、言葉にできるのは、麻友さんが特待生だからだけど、まず、力学的エネルギー保存の式、

{\displaystyle \frac{1}{2}mv^2+mgh=0}

だけど、これは、速さがゼロのときを、高さゼロにしている、というようなことを、言った」

麻友「そうね。速さ {v=0} のとき、{m}{g} も、ゼロではないから、{h=0} だと太郎さんは、言った」


私「これ、基準をずらせるんだよ。麻友さんは、本当は、身長156cmだろ。つまり {1.56\mathrm{m}} だ。だから、{h}{1.56\mathrm{m}} を入れたとき、 {h} の部分が、ゼロになった方がいい」

麻友「どういうこと?」

私「つまり、

{\displaystyle \frac{1}{2}mv^2+mg(h-1.56)=0}

とするということ。この {h} は、新しい {h} だよ」

麻友「私が、ボールを投げる瞬間の高さを、そのまま、{h=1.56 \mathrm{m}} と、代入できるということ?」

私「そうだね。身長と、手の高さを、ほぼ同じとしてね」

麻友「こんなことして、何になるの?」

私「この式は、

{\displaystyle \frac{1}{2}mv^2+mgh=1.56mg}

と、書ける。右辺は、定数だね」

麻友「いきなり、変な変形しないでよ。ああ、でもそう」

私「そうだとすると、ボールが飛んでいる間、左辺は一定。変化しないということを、保存すると、物理学では、言うんだ」

麻友「だから、力学的エネルギー保存の式と。その効用は?」

私「一番顕著なのは、麻友さんが、真上に向かって、秒速10メートル、つまり時速36キロで、ボールを投げ上げた場合、何メートルまで上がるか? という問題を解く場合」

麻友「また、微分とか、使うの?」

私「それが、ただ次のことをするだけで、いいんだ

{\displaystyle \frac{1}{2}m\mathrm{kg}(10\mathrm{m/s})^2+1.56 \mathrm{m} m\mathrm{kg} 9.8 \mathrm{m/s^2}=0+x m\mathrm{kg} 9.8 \mathrm{m/s^2}}

ボールの質量は、全部にかかってるから、割り算できて、

{\displaystyle \frac{1}{2}(10\mathrm{m/s})^2+1.56 \mathrm{m} 9.8 \mathrm{m/s^2}=0+x 9.8 \mathrm{m/s^2}}

この計算する?」

麻友「確かに、スマホで、計算できる

{50\mathrm{m^2/s^2}+15.288 \mathrm{m^2/s^2}=9.8x\mathrm{m/s^2}}

として、

{(50+15.288)\mathrm{m^2/s^2}=9.8\times x\mathrm{m/s^2}}

{9.8x=65.288\mathrm{m}}

だから、

{x=6.662\cdots \mathrm{m}}

ほぼ、6.5メートル。2階の屋根に届くかどうか。有り得ない高さでは、ないわね。太郎さん、こんなのサラッと計算できるの?」

「いや、今、麻友さんのために計算してて、最初、52メートルと、出た。流石にこれは、無理だろうと検算していって、

{50\mathrm{m^2/s^2}+15.288 \mathrm{m^2/s^2}=9.8x\mathrm{m/s^2}}

の式で、{500\mathrm{m^2/s^2}} としているのに、気付いて、計算しなおした」

麻友「よく計算し直す気になるわね」

私「麻友さん相手だから」

麻友「はいはい。じゃあ、教科書みたいだけど、応用問題とか、やらないの?」

私「じゃあ、こんなのどうだろう」


 応用問題

 埼玉県秩父の蛹沢不動滝(さなぎさわふどうたき)は、1段目12メートル、2段目14メートル、3段目50メートルの落差があります。3段76メートル下った水は、摂氏何度、水温が上がるでしょう。


麻友「私が、埼玉県人だから、蛹沢不動滝を使ったのね。でも、滝で落下すると、温度が上がるなんて、知らないし、・・・。でも、特待生がそれじゃ、駄目よね。どうせ、単位体積で、測っていいんだから、{1\mathrm{kg}} で、考える。位置エネルギーが、

{U=mgh}

というのを、使わせたいのよね。あっ、そうか、質量は、{1\mathrm{kg}} 、重力加速度は、{g=9.8 \mathrm{m/s^2}} 高さは、{76 \mathrm{m}} と、分かっているんだから、

{U=1\times 9.8 \times 76 \mathrm{kgm^2/s^2}}

計算して、

{U=744.8 \mathrm{kgm^2/s^2}}

って、これが、温度とどう関係あるの?」

私「麻友さん。花嫁修業って、したことないかな? {\mathrm{kgm^2/s^2}} って、ジュールっていう単位なんだよ。記号は、{\mathrm{J}}

麻友「えっ、ジュールって、知ってる。確か、エネルギーが、{1\mathrm{cal}=4.2\mathrm{J}} と、換算できるって」

私「その知識使ってごらん」

麻友「{1\mathrm{cal}} は、{1\mathrm{cc}} の水の温度を1度上げる、熱量。つまり、熱量とエネルギーって、同じことの別な言い方なのね。今、水が滝から落ちて、

{U=744.8 \mathrm{kgm^2/s^2}=744.8 \mathrm{J}}

のエネルギーが、生まれた。これを、{4.2\mathrm{J}} で、割ると、

{\displaystyle \frac{744.8}{4.2}=177.33\cdots }

だから、{1\mathrm{cc}} の水が、{177.33\mathrm{cal}} の熱で、摂氏 {177.33} 度、温度が上がる。って、沸騰しちゃうわよね」

私「そう。高校2年のとき、私も、その間違いをした。計算は、合ってるはずなのに、どう考えても沸騰するほど熱がでる。これなら、原子力発電所なんて、いらない」

麻友「太郎さんも、間違えたの? どうやって、間違いを見つけたの?」

私「クラスの他の子が、気付いたんだよね」

麻友「何に?」

私「麻友さん最初に、

『どうせ、単位体積で、測っていいんだから、{1\mathrm{kg}} で、考える』

って、言ったよね」

麻友「ああ、そうか。{1\mathrm{kg}} なら、牛乳の大きいパック {1000\mathrm{cc}} だ。つまり、{1000\mathrm{cc}} に、{177.33\mathrm{cal}} の熱だから、{0.17733\ {}^{\circ}\mathrm{C}} しか、水温は、上がらないのね」

私「こういう風に、物理学って、日常のことの中に、しっかり、根を下ろしている。さっきの応用問題、私の前では、


答え {0.17733\ {}^{\circ}\mathrm{C}}


で、いいけど、正式には、有効数字というものを意識して、


答え {0.18\ {}^{\circ}\mathrm{C}}


などとしなければ、ならない。でも、麻友さんは、当分そんなこと、気にしなくていいよ」


麻友「太郎さん。エネルギーの式を、

{\displaystyle E=\frac{mc^2}{\sqrt{\displaystyle 1-\frac{v^2}{c^2}}}}

と、お父さんの前でも、今回も、見せてくれたじゃない」

私「うん」

麻友「このルートが、やっかいじゃない。両辺自乗しちゃったら? こういう風に

{\displaystyle E^2=\frac{m^2c^4}{\displaystyle 1-\frac{v^2}{c^2}}}

どう?」

私「その線で行くと、もっと行かれる。エネルギーの他に、運動量というものが、あるんだ。これは、フィギュアスケートの試合で運動した量という意味のものではなく、エネルギーと同様に、

{\displaystyle p=\frac{mv}{\sqrt{\displaystyle 1-\frac{v^2}{c^2}}}}

と、定義されるものだ。質量掛ける速度に、ほぼ等しい。ルートの中が、相対性理論による補正項」

麻友「つまり、普通は、

{p=mv}

ということ?」

私「そういうこと。さて、麻友さんが外した、ルートと同様、これも、自乗する。

{\displaystyle p^2=\frac{m^2v^2}{\displaystyle 1-\frac{v^2}{c^2}}}

分母をはらう。

{\displaystyle p^2\biggl( 1-\frac{v^2}{c^2} \biggr)=m^2v^2}

右辺を、分母分子に {c^2} をかけて変形。

{\displaystyle p^2\biggl( 1-\frac{v^2}{c^2} \biggr)=m^2c^2\frac{v^2}{c^2}}

{\displaystyle \frac{v^2}{c^2}} で、まとめて、

{\displaystyle p^2-p^2\frac{v^2}{c^2}=m^2c^2\frac{v^2}{c^2}}

{\displaystyle p^2=\biggl( p^2+m^2c^2 \biggr) \frac{v^2}{c^2}}

割り算して、

{\displaystyle \frac{p^2}{p^2+m^2c^2}=\frac{v^2}{c^2}}

 これを、次の式に代入。

{\displaystyle 1-\frac{v^2}{c^2}=1-\frac{p^2}{p^2+m^2c^2}=\frac{p^2+m^2c^2}{p^2+m^2c^2}-\frac{p^2}{p^2+m^2c^2}=\frac{m^2c^2}{p^2+m^2c^2}}

 さて、この結果を、麻友さんの自乗した式に代入すると、

{\displaystyle E^2=\frac{m^2c^4}{\displaystyle 1-\frac{v^2}{c^2}}=\frac{m^2c^4}{\displaystyle \frac{m^2c^2}{p^2+m^2c^2}}}

    {=c^2(p^2+m^2c^2)=p^2c^2+m^2c^4}

となる。この最後の式、

{\displaystyle E^2=p^2c^2+m^2c^4}

これが、エネルギーの厳密な式だ。この計算は、放送大学の相対論の教科書を参考にした。

岡村浩『相対論』(放送大学教育振興会


麻友「もう、速さ {v} は、現れないのね」

私「そうなんだ。私が、2013年に、質量再定義のための、論文を発表しようとしたとき、X指定の親友から、運動量は保存量だが、速度は保存量ではないから、このままでは、測定できないと、言われた。私に取っては、測定できないなどという概念に慣れていなかったので、目から鱗だった」

麻友「いいお友達がいるのね」

私「うん。その通り。それで、麻友さんの自乗するというアイディアは、結果的に、例のおつりがその運動量で書けることを、明らかにした。これが、最終形だ。さすが、特待生」

麻友「でも、ここまでやったのは、太郎さんには、何か魂胆があったのでしょう」

私「エヘヘ、場の量子論を制覇しよう!のブログで、第3回の『量子力学概論(その3)』で、テキストの2ページの写真に、この式が写っているんだ」

麻友「えっ、量子力学で使おうと思って、証明してたの?」

私「昨日の晩、思いついたんだ。あれ、説明できるなって」

麻友「分かってませんからねーだ」

私「じゃあ、今日は、ここまでにするか」

麻友「じゃあね」

私「バイバイ」

 現在2019年11月24日19時40分である。おしまい。